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『人魚の祠』 青空文庫
蝙蝠傘《かうもりがさ》を杖にして、私がひよろ/\として立去る時、沼は暗うございました。そして生ぬるい雨が降出した……
(奥さんや、奥さんや。)
と云つたが、其の土袋《どぶつ》の細君ださうです。土地の豪農何某《なにがし》が、内証の逼迫した華族の令嬢を金子《かね》にかへて娶つたと言ひます。御殿づくりでかしづいた、が、其の姫君は可恐《おそろし》い蚤嫌ひで、唯一匹にも、夜も昼も悲鳴を上げる。其の悲しさに、別室の閨を造つて防いだけれども、防ぎ切れない。で、果は亭主が、蚤を除《よ》けるための蚤の巣に成つて、棕櫚の毛を全身に纏つて、素裸で、寝室の縁の下へ潜り潜り、一夏のうちに狂死《くるひじに》をした。――
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