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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「ええ、仁右衛門《にえむ》の声だ。南無阿弥陀仏《なんまいだ》、ソ、ソレ見さっせえ。宵に門前《もんまえ》から遁帰った親仁めが、今時分何しに此処へ来るもんだ。見ろ、畜生、さ、さすが畜生の浅間しさに、そこまでは心着かねえ。へい、人間様だぞ。おのれ、荒神様がついてござる、猿智慧だね、打棄《うっちゃ》って置かっせえまし。」
 と雨戸を離れて、肩を一つ揺《ゆす》って行こうとする。広縁のはずれと覚しき彼方へ、板敷を離るること二尺ばかり、消え残った燈籠のような紙がふらりと出て、真四角に、燈が歩行《ある》き出した。

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