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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 さやさやと葎を分けて、おじいどうした、と摺寄ると、ああ、宰八か助けてくれ。この手を引張《ひっぱ》って、と拝むが如く指出《さしだ》した。左の腕《かいな》を、ぐい、と掴んで、獣にしては毛が少ねえ、おおおお正真正銘の仁右衛門だ、よく化けた、とまだそんな事をいいながら、肩にかけて引立てると、飛石から離れるのが泥田を踏むような足取りで、せいせい呼吸《いき》を切って、しがみつくので、咽喉《のど》がしまる、と呟きながら、宰八も疾く埒を明けたさに、委細構わずずるずる引摺って縁側に来る間に、明はもう一枚、雨戸を開けて待構えて、気分はどう? まあ、此方へ、と手伝って引入れた、仁右衛門の右の手は、竹槍を握っていたのである。
 これは、と驚くと、仔細ござります。を一口、という舌も硬ばり、唇は土気色。手首も冷たく只戦《ひたわなな》きに戦《わなな》くので、ともかくも座敷へ連れよう……何しろ危いから、こういうものはと、竹槍は明が預る。

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