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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 これは、と驚くと、仔細ござります。水を一口、という舌も硬ばり、唇は土気色。手首も冷たく只戦《ひたわなな》きに戦《わなな》くので、ともかくも座敷へ連れよう……何しろ危いから、こういうものはと、竹槍は明が預る。
 引そいだ切尖《きっさき》の鋭いのが、法衣《ころも》の袖を掠ったから、背後《うしろ》に立った僧は慌てて身を開いて、行燈は手前が、とこれが先へ立つ。
 さあ負《おぶ》され、と蟹の甲を押向けると、否《いや》、それには及ばぬ、といった仁右衛門が、僧の裾を啣えた体に、膝で摺って縁側へ這上った。

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