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 『化鳥』 青空文庫

で、つまり情《じやう》を動かされて、悲《かなし》む、愁うる、楽《たのし》む、喜《よろこ》ぶなどいふことは、時に因り場合《ばあひ》に於《おい》ての母様《おつかさん》ばかりなので。余所《よそ》のものは何うであらうと些少《ちつと》も心《こころ》には懸《か》けないやうに日ましにさうなつて来た。しかしかういふ心《こゝろ》になるまでには、私《わたし》を教へるために毎日、毎晩《まいばん》、見る者《もの》、聞くものについて、母様《おつかさん》がどんなに苦労《くらう》をなすつて、丁寧に親切《しんせつ》に飽かないで、熱心《ねつしん》に、懇《ねんごろ》に噛《か》むで含《ふく》めるやうになすつたかも知れはしない。だもの、何うして学校の先生をはじめ、余所《よそ》のものが少《せう》々位《ぐらゐ》のことで、分るものか、誰だつて分りやしません。
処が、様《おつかさん》と私《わたし》とのほか知らないことをモ一人他に知つてるものがあるさうで、始終《しゞう》様《おつかさん》がいつてお聞かせの、其は彼処《あすこ》に置物のやうに畏《かしこま》つて居る、あの猿―あの猿の旧《もと》の飼主《かひぬし》であつた―老父《ぢい》さんの猿廻《さるまはし》だといひます。

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