検索結果詳細


 『半島一奇抄』 青空文庫

 山藤が紫に、椿が抱いた、群青《ぐんじょう》の巌《いわ》の聳《そび》えたのに、純な石の扉の、まだ新しいのが、ひたと鎖《とざ》されて、緋《ひ》の椿の、落ちたのではない、優《やさし》い花が幾組か祠《ほこら》に供えてあった。その花には届くが、低いのでも階子《はしご》か、しかるべき壇がなくては、扉には触れられない。辰さんが、矗立《しゅくりつ》して、巌《いわ》の根を踏んで、背のびをした。が、けたたましく叫んで、仰向《あおむ》けに反《そ》って飛んで、手足を蛙《かえる》のごとく刎《は》ねて騒いだ。

 117/129 118/129 119/129


  [Index]