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 『日本橋』 青空文庫


「御維新ちっと前だって、芝の大門通りの足袋屋に名代娘の人が有った。
 その時分、増上寺の坊さんは可恐しく金を使ったそうでね、怪しからないのは居周囲の堅気の女房で、内々囲われていたのさえ有ると言うのさ。その増上寺に、年少な美僧で道心堅固な俊才のが一人あった。夏の晩方、表町へ買物が有って、麻の法衣で、ごそごそと通掛ると、その足袋屋の小僧の、店前へ水を打っていた奴、太粗雑だから、ざっと刎ねて、坊さんが穿きたての新しい白足袋を泥だらけにしたんだとね。……当時は電車で、毎々の事だが。

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