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 『婦系図』 青空文庫

 やがて、貸切と書いた紙の白い、その門の柱の暗い、敷石のぱっと明《あかる》い、静粛《しん》としながら幽《かすか》なように、三味線《さみせん》の音《ね》が、チラチラ水の上を流れて聞える、一軒大構《おおがまえ》の料理店の前を通って、三つ四つ軒燈籠の影に送られ、御神燈の灯に迎えられつつ、地《つち》の濡れた、軒に艶ある、その横町の中程へ行くと、一条《ひとすじ》朧《おぼろ》な露路がある。
 芸妓家《げいしゃや》二軒の廂合《ひあわい》で、透かすと、奥に薄墨で描いたような、竹垣が見えて、涼しい若葉の梅が一木《ひとき》、月はなけれど、風情を知らせにすっきりと彳むと、向い合った板塀越に、青柳の忍び姿が、おくれ毛を銜《くわ》えた態《てい》で、すらすらと靡いている。

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