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『海神別荘』 華・成田屋
博士 これは、仏国の大帝奈翁（ナポレオン）が、西暦千八百八年、西班牙（スペイン）遠征の途に上りました時、かねて世界有数の読書家。必要によって当時の図書館長バルビールに命じて製らせ（つくらせ）ました、函入新装の、一千巻、一架（ひとたな）に内容は、宗教四十巻、叙事詩四十巻、戯曲四十巻、その他の詩篇六十巻。歴史六十巻、小説百巻、と申しまするデュオデシモ形と申す版本の事を・・・お聞及びなさいまして、御姉君（おあねぎみ）、乙姫様が御工夫を遊ばしました。蓮の糸、一筋を、およそ枚数千頁に薄く織拡げて、一万枚が一折、一百二十折を合せて一冊に綴じましたものでありまして、この国の微妙なる光に展きますると、森羅万象、人類をはじめ、動植物、鉱物、一切の元素が、一々（ひとつ）ずつ微細なる活字となって、しかも、各々五色の輝（かがやき）を放ち、名詞、代名詞、動詞、助動詞、主格、句読、いずれも個々別々、七彩に照って、かく開きました真白な枚（ペエジ）の上へ、自然と、染め出さるるのでありまして。
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