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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 その細腰を此方へ、背を斜にした裾が、脛のあたりへ瓦を敷いて、細くしなやかに掻込んで、蹴出したような褄先が、中空なれば遮るものなく、便《たより》なさそうに、しかも軽く、軒の蜘蛛の囲《い》の大きなのに、はらりと乗って、水車《みずぐるま》に霧が懸った風情に見える。背筋の靡く、頸許《くびもと》のほの白さは、月に預けて際立たぬ。その月影は朧ながら、濃い黒髪は緑を束ねて、森の影が雲かと落ちて、その俤をうらから包んだ、向うむきの、やや中空を仰いだ状《さま》で、二の腕の腹を此方へ、雪の如く白く見せて、静《しずか》に鬢の毛を撫でていた。
 魚の指の尖の、ちらちらと髪を潜って動いたのも、思えば見えよう道理はないのに、的切《てっきり》耳が動いたようで。
 驚破《すわ》、獣《けだもの》か、人間か。いずれこの邸を踏倒そう屋根住居してござる。おのれ、見ろ、と一足退《すさ》って竹槍を引扱き、鳥を差《さ》いた覚えの骨《こつ》で、スーッ! 突出した得物の尖が、右の袖下を潜るや否や、踏占めた足の裏で、ぐ、ぐ、ぐ、と声を出したものがある。

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