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『春昼後刻』 泉鏡花を読む
と先づ口の裏で云つて見て、小首を傾けた。杖が邪魔なので腕の処へ揺り上げて、引包んだ其の袖ともに腕組をした。菜種の花道、幕の外の引込みには引立たない野郎姿。雨上りで照々と日が射すのに、薄く一面にねんばりした足許、辷つて転ばねば可い。
「恋しき人を見てしより……夢てふものは、」
と一寸顔を上げて見ると、左の崕から椎の樹が横に出て居る――遠くから視めると、これが石段の根を仕切る緑なので、――庵室は最う右手の背後になつた。
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