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 『泉鏡花自筆年譜』 泉鏡花を読む

 明治二十五年六月、先生の「夏小袖」春陽堂より匿名にて出づ。作者の名を言ひあてたる読者に懸賞の催しなり。堅く秘して、店員にも、活版所にも、先生の真蹟を知らざらしめむがために、玄関番全稿を書写す。指呼するもの十に八九は中(あた)らず。其の名あらはるるや、「やったな、覚えて居(を)れ。」と、饗庭翁より葉書の舞込むに到る。先生リッチモンドを斜にふかして、莞爾として、「これを知るもの全国に三人」と。即ち先生と、和田鷹城と、玄関番なり。内弟子信用を受く。十二月、金沢市大火、実家類焼の厄に逢ふ。帰郷。年内大雪の中を上京す。汽車いまだ敦賀以北を通ぜざりき。

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