検索結果詳細


 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 銀平は驚きながら思ふやう、亭主は飽迄《あくまで》探偵と、我を信じて疑はねば、下枝を別の部屋に蔵《かく》して、我を欺くべうも無し。之は必ず八蔵が何とかして便を得て、前に奪ひ出だせるならむ。さすれば我は此家に用無し。長居は無益《むやく》と何気無く、「これは、怪しからん。不図すると先刻《さつき》遁失せた悪漢《わるもの》が小戻《こもどり》して、奪ひ取つたかも知れぬ、猶予する処で無い。僕は直ぐに捜しに出るといはれて亭主は極《きまり》悪げに、「飛んだことになりました、申訳がございません。「なあに貴下の落度ぢや無い、僕が職務の脱心《ぬかり》であつた。いや然《しか》らば。と言ひ棄ててとつかは外へ立出でて雪の下へと引返せば、とある小路の小暗き処に八蔵は隠れ居つ、銀平の来懸るを、小手で招いて、「おい、此処だよ。」

 120/219 121/219 122/219


  [Index]