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 『日本橋』 青空文庫

 思掛けない音に、ちょっと驚いた顔をした清葉にそう云って、土産じゃない、汐干では時節が違う。……雛に供えたのを放生会、汐入の川へ流しに来たので、雛は姉から預かったのを祭っている……先祖の位牌は、妹が一人あって、それが斉眉く、と言ったんだね。
 そして御姉妹は、と清葉が訊くから、(実は。)と出ました。……実は、それに就いて、と言ったもんです。何に就いてだが、自分にも分らない。けれどもね……何に就いたって、あし掛七年の間、ただ一度も、気障な、可厭らしい、そんな事を、言出せそうな機会と云っては一度も無かった。

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