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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 二人寝には楽だけれども、座敷が広いから、蚊帳は式台向きの二隅と、障子と、襖と、両方の鴨居の中途に釣手を掛けて、十畳敷のその三分の一ぐらいを――大庄屋の夜の調度――浅緑を垂れ、紅麻《こうあさ》の裾長く曳いて、縁側の方に枕を並べた。
 一日《あるひ》、朝から雨が降って、昼も夜のようであったその夜中の事――と語り掛けて、明はすやすやと寝入ったのである。
 いずれそれも、怪しき事件《こと》の一つであろう。……あわれ、この少《わか》き人の、聞くが如くんば連日の疲労《つかれ》もさこそ、今宵は友として我茲に在るがため、幾分の安心を得て現なく寝入ったのであろう、と小次郎法師が思うにつけても、蚊帳越に瞻らるるは床の間を背後《うしろ》にした仄白々とある行燈。

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