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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 お藤は得三の手篭にされて、遂《つひ》には帯も解け広がりぬ。こは悲しやと半狂乱、犇《ひし》と人形に抱き附きて、「おつかさん!と血を絞る声。世に無きに救《すくひ》を呼びて、取り縋る手を得三がもぎ離して捻ぢ上ぐれば、お録は落散る腰帯を手繰つてお藤を縛り附け、座敷の真中にずる/\と、髷《わげ》を掴んで引出し、押しつけぬ。形怪しき火取虫いと大きやかなるが、今ほど此室《こゝ》に翔《かけ》り来て、赫々たる洋燈《ランプ》の周囲《めぐり》を、飛び廻り、飛び狂ひ、火にあくがれて居たりしが、ぱつと羽たゝき火屋の中へ逆さまに飛び入りつ、煽動《あふり》に消える火とともに身を焦してぞ失せにけり。

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