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 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫

 廻廊の縁の角あたり、雲低き柳の帳《とばり》に立って、朧《おぼろ》に神々しい姿の、翁の声に、つと打向《うちむか》いたまえるは、細面《ほそおもて》ただ白玉の鼻筋通り、水晶を刻んで、威のある眦《まなじり》。額髪、眉のかかりは、紫の薄い袖頭巾《そでずきん》にほのめいた、が、匂はさげ髪の背に余る。――紅地金襴《べにじきんらん》のさげ帯して、紫の袖長く、衣紋《えもん》に優しく引合わせたまえる、手かさねの両の袖口に、塗骨の扇つつましく持添えて、床板の朽目の青芒《あおすすき》に、裳《もすそ》の紅《くれない》うすく燃えつつ、すらすらと莟《つぼみ》なす白い素足で渡って。――神か、あらずや、人か、巫女《みこ》か。
「――その話の人たちを見ようと思う、翁、里人の深切に、すきな柳を欄干さきへ植えてたもったは嬉しいが、町の桂井館は葉のしげりで隠れて見えぬ。――広前の、そちらへ、参ろう。」

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