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『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径
颯と照射《さし》入る月影に、お藤の顔は蒼うなり、人形の形は朦朧と、煙の如く仄見えつ。霊山《りやうざん》に撞く寺の鐘、丑満《うしみつ》時を報《つ》げ来して、天地寂然《しん》として、室内陰々たり。
斯りし時、何処ともなく声ありて、「お待ち!と一言呼ばはり叫びぬ。
思ひ懸《が》けねば、得三等、誰そやと見廻す座敷の中に、我々と人形の外《ほか》には人に肖たらむ者も無し。三人奇異の思ひを為すうち、誰が手を触れしといふこと無きに人形の被《かづき》すらりと脱け落ちて、上臈の顔《かんばせ》顕はれぬ。〓呀《あなや》と顔を見合す処に、いと物凄き女の声あり。「無法を働く悪人等《ども》、天の御罰《ごばち》を知らないか。左様《さう》いふ婚姻は決してなりません。」
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