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 『日本橋』 青空文庫

 内職の片手間に、近所の小女に、姉が阪東を少々、祖母さんが宵は待ぐらいを教えていたから、豆煎は到来ものです。
(白酒をおあがり、晋ちゃん、私が縁起直しに鉢の木を御馳走しよう。)と、錻落しの長火鉢の前へ、俎と庖丁を持出して、雛に飾った栄螺と蛤をおろしたんだ。
 重代の雛は、掛物より良い値がついて、疾に売った。有合わせたのは土彩色の一もん雛です。中にね、――潰島田に水色の手柄を掛けた――年数が経って、簪も抜けたり、その鬢の毛も凄いような、白い顔に解れたが――一重桜の枝を持って、袖で抱くようにした京人形、私たち妹も、物心覚えてから、姉に肖ている、姉さんだ姉さんだと云い云いしたのが、寂しくその蜜柑箱に立っていた。

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