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 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫

 姫のその姿が、正面の格子に、銀色の染まるばかり、艶々《つやつや》と映った時、山鴉《やまがらす》の嘴太《はしぶと》が――二羽、小刻みに縁を走って、片足ずつ駒下駄《こまげた》を、嘴《くちばし》でコトンと壇の上に揃えたが、鴉がなった沓《くつ》かも知れない、同時に真黒《まっくろ》な羽が消えたのであるから。
 足が浮いて、ちらちらと高く上ったのは――い蝶が、トタンにその塗下駄の底を潜《くぐ》って舞上ったので。――見ると、姫はその蝶に軽く乗ったように宙を下り立った。

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