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 『日本橋』 青空文庫

 と立って、脛をするすると次の室へ。襖を閉めようとしてちょっと立姿で覗く。羽二重の紅なるに、緋で渦巻を絞ったお千世のその長襦袢の絞が濃いので、乳の下、鳩尾、窪みに陰の映すあたり、鮮紅に血汐が染むように見えた――俎に出刃を控えて、潰島田の人形を取って据えたその話しの折のせいであろう。
 凄さも凄いが、艶である。その緋の絞の胸に抱く蔽の紙、小枕の濃い浅黄。隅田川のさざ波に、桜の花の散敷く俤。
 非ず、この時、両国の雪。

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