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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 おお、この森を峠にして、こんな晩、中空を越す通魔《とおりま》が、魔王に、礑《はた》と捧ぐる、関所の通証券《とおりてがた》であろうも知れぬ。膝を払って衝《つ》と立って、木の葉のはらはらと揺れるに連れて、ぶるぶると渠は身震いした。
 「えへん!」
 と揉潰《もみつぶ》されたような掠《かす》れた咳して、何かに目を転じて、心を移そうとしたが、風呂敷包の、御経を取出す間も遅し。さすがに心着いたのは、障子に四、五枚、かりそめに貼った半紙である。

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