検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 瓜核顔《うりざねがお》の、鼻の準縄《じんじょう》な、目の柔和《やさし》い、心ばかり面窶《おもやつれ》がして、黒髪の多いのも、世帯を知ったようで奥床しい。眉のやや濃い、生際《はえぎわ》の可い、洗い髪を引詰《ひッつ》めた総髪《そうがみ》の銀杏返しに、すっきりと櫛の歯が通って、柳に雨の艶の涼しさ。撫肩の衣紋つき、少し高目なお太鼓の帯の後姿が、あたかも姿見に映ったれば、水のように透通る細長い月の中から抜出したようで気高いくらい。成程この婦《おんな》の母親なら、芸者家の阿婆《おっかあ》でも、早寝をしよう、と頷かれる。
「まあ、よくいらしってねえ。」
 と主税の方へ挨拶して、微笑みながら、濃い茶に鶴の羽小紋の紋着《もんつき》二枚袷、藍気鼠《あいけねずみ》の半襟、白茶地《しらちゃじ》に翁格子《おきなごうし》の博多の丸帯、古代模様空色縮緬の長襦袢、慎ましやかに、酒井に引添《ひっそ》うた風采《とりなり》は、左支《さしつか》えなく頭《つむり》が下るが、分けてその夜の首尾であるから、主税は丁寧に手を下げて、

 1270/3954 1271/3954 1272/3954


  [Index]