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 『日本橋』 青空文庫

「……迄は、まあ可かったんです。……ところが、その後|祖の亡くなった時と、妹が婚礼をした時ぐらいなもので、可懐い姉は、毎晩夢に見るばかり。……私には逢ってくれない。二階の青簾、枝折戸の朝顔、夕顔、火の見の雁がね、忍返しの雪の夜。それこそ、鳴く虫か小鳥のように、どれだけ今戸のあたり姉の妾宅の居周囲を、あこがれて※徊ったろう、……人目を忍び、世間を兼ねる情婦ででも有るように。――暗号で出て来る妹と手を取って、肩を抱合って、幾度泣いたか知れません。……姉は恥かしいから逢わぬと歎く。女の身体の、切刻まれる処が見たいか、と叱るんだね。

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