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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

学円 道理こそ燈《あかり》が消えて、ああ、蚊遣《かやり》の煙で、よくは見えぬが、……納戸に月が射《さ》すらしい。――お待ちなさい。今、言いかけた越前の話というのは、縁の下で牡丹餅《ぼたもち》が化けたのです。たとえば、ここで私《わし》がものを云うと、その通り、縁の下で口真似をする奴《やつ》がある。村中が寄って集《たか》って、口真似するは何ものじゃ。狐か、と聞くと、違う。と答える。狸か、違う、獺《かわうそ》か、違う、魔か、天狗《てんぐ》か、違う、違う。……しまいに牡丹餅か、と尋ねた時、おうと云って消え失《う》せたという――その話をする気であったが、……まだ外に、月が聞くと言わるるから、出直して、別の談話《はなし》をする気になった。お聞きなさい。これは現在一昨年《おととし》の夏――

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