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 『義血侠血』 青空文庫

 魂消《たまげ》たるは乗り合いなり。乗り合いは実に魂消たるなり。渠らは千体仏のごとく面を鳩《あつ》め、あけらかんと頤《おとがい》を垂れて、おそらくは画にも観るべからざるこの不思議の為体《ていたらく》に眼を奪われたりしに、その馬は奇怪なる御者と、奇怪なる美人と、奇怪なる挙動《ふるまい》とを載せてましぐらに馳せ去りぬ。車上の見物はようやくわれに復《かえ》りて響動《どよ》めり。
「いったいどうしたんでしょう」
「まず乗せ逃げとでもいうんでしょう」

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