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 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫

「ああ、見えましゅ……あの向う丘の、二階の角の室《ま》に、三人が、うせおるでしゅ。」
 姫の紫の褄下《つました》に、山懐《やまふところ》の夏草は、淵《ふち》のごとく暗く沈み、野茨《のばら》乱れてきのみ。沖の船の燈《ともしび》が二つ三つ、星に似て、ただ町の屋根は音のない波を連ねた中に、森の雲に包まれつつ、その旅館――桂井の二階の欄干が、あたかも大船の甲板のように、浮いている。

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