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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

一人、私《わし》の親友に、何かかねて志す……国々に伝わった面白い、また異《かわ》った、不思議な物語を集めてみたい。日本中残らずとは思うが、この夏は、山深い北国《ほっこく》筋の、谷を渡り、峰を伝って尋ねよう、と夏休みに東京を出ました。――それっきり、行方が知れず、音沙汰《おとさた》なし。親兄弟もある人物、出来る限り、手を尽くして捜したが、皆目跡形《あとかた》が分らんから、われわれ友だちの間にも、最早《もは》や世にない、死んだものと断念《あきら》めて、都を出た日を命日にする始末。いや、一時は新聞沙汰、世間で豪《えら》い騒ぎをした。……
自殺か、怪我《けが》か、変かと、果敢《はか》ない事に、寄ると触ると、袂《たもと》を絞って言い交わすぞ! あとを隠すにも、ぬのにも、何の理由もない男じゃに、貴女、世間には変った事がありましょうな。……

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