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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 唯《ト》見ると襖から承塵《なげし》へかけた、雨《あま》じみの魍魎と、肩を並べて、その頭、鴨居を越した偉大の人物。眉太く、眼円《つぶら》に、鼻隆《たこ》うして口の角《けた》なるが、頬肉《ほおじし》豊《ゆたか》に、あっぱれの人品也。生《き》びらの帷子に引手の如き漆紋の着いたるに、白き襟をかさね、同一《おなじ》色の無地の袴、折目高に穿いたのが、襖一杯にぬっくと立った。ゆき短《みじか》な右の手に、畳んだままの扇を取って、温に微笑を含み、動《ゆる》ぎ出でつ、ともなく客僧の前へのっしと坐ると、気に圧された僧は、犇《ひし》と茶斑《ちゃまだら》の大牛に引敷《ひっし》かれたる心地がした。

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