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 『海神別荘』 華・成田屋

博士  (朗読す)――紅蓮の井戸堀、焦熱の、地獄のかま塗(ぬり)よしなやと、急がぬ道をいつのまに、越ゆる我身の死出の山、死出の田長(たおさ)の田がりよし、野辺より先を見渡せば、過ぎし冬至の冬枯の、木の間木の間にちらちらと、ぬき身の槍や恐しや、――
公子  (姿見を覗きつつ、且つ聴きつつ)ああ、いくらか似ている。
博士  ――また冷返(ひえかえ)る夕嵐、雪の松原、この世から、かかる苦患(くげん)におう亡日(もうにち)、島田乱れてはらはらはら、顔にはいつもはんげしょう、縛られし手の冷たさは、我身一つの寒の入、涙ぞ指の爪とりよし、袖に氷を結びけり。・・・

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