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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 と莞爾《かんじ》として、客僧の坊主頭を、やがて天井から瞰下《みおろ》しつつ、
 「かくてもなお、我らがこの宇宙の間に罷在るを怪まるるか。うむ、疑いに〓《みは》られたな。〓《みひら》いたその瞳も、直ちに瞬く。
 凡そ天下に、夜を一目も寝ぬはあっても、瞬《またたき》をせぬ人間は決してあるまい。悪左衛門をはじめ夥間《なかま》一統、即ちその人間の瞬く間を世界とする――瞬くという一秒時には、日輪の光によって、御身らが顔容《かおかたち》、衣服の一切《すべて》、睫毛までも写し取らせて、御身らその生命《いのち》の終る後、幾百年にも活けるが如く伝えらるる長き時間のあるを知るか。石と樹と相打って、火をほとばしらすも瞬く間、またその消ゆるも瞬く間、銃丸の人を貫くも瞬く間だ。

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