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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
路に灘はござりませぬが、樽の香が芬々して、鮹も浮きそうな凪の好さ。せめて船にでも酔いたい、と一人が串戯《じょうだん》に言い出しますと、何と一樽賭けまいか、飲むことは銘々が勝手次第、勝負の上から代銭を払えば可い、面白い、遣るべいじゃ。
煙管の吸口ででも結構に樽へ穴を開ける徒《てあい》が、大びらに呑口切って、お前様、お船頭、弁当箱の空《あき》はなしか、といびつ形《なり》の切溜を、大海でざぶりとゆすいで、その皮づつみに、せせり残しの、醤油かすを指のさきで嘗めながら、まわしのみの煽切《あおっきり》。
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