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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「時に、この邸には、当月はじめつ方から、別に逗留の客がある。同一《おなじ》境涯にある御仁じゃ。われら附添って眷属ども一同守護をいたすに、元来、人足の絶えた空家を求めて便った処を、唯今眠りおる少年の、身にも命にも替うる願《ねがい》あって、身命を賭物にして、推して草叢に足痕を留めた以来、とかく人出入騒々しく、かたがた妨げに相成るから、われら承って片端から追払うが、弱ったはこの少年じゃ。
 容《かおかたち》に似ぬその志の堅固さよ。唯お伽めいた事のみ語って、自からその愚さを恥じて、客僧、御身にも話すまいが、や、この方実は、もそっと手酷い試をやった。

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