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 『日本橋』 青空文庫

 と云う……人を見た声も様子も、通りがかりに、その何となく悄れたのを見て、下に水ある橋の夜更、と爺が案じたほどのものではない。
「今、お帰りなんですか。」
「はい、ええ、貴女からお心添え、と申されて、途中でまた待伏せでもされるような事があってはならねえ。泊れ、世話をしょう、荷なりと預ってやろうと、こう云うて下さいましたが、何、前後の様子で、私、尺を取りました寸法では、一時|赫として手を上げましたばかり。さして意趣遺恨の有る覚えとてもござりませず、……何また、この上に重ねて乱暴をしますようなれば、一旦はちと遠慮がござりましてわざと控えましたようなものの、いざとなれば、何の貴女、ただ打たれておりますものか。向脛を掻払って、ぎゃっと傾倒らしてくれますわ。」と影弁慶が橋の上。もとより好む天秤棒、真中取って担ぎし有様、他の見る目も覚束ない。

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