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『高野聖』 泉鏡花を読む
今度は蛇のかはりに蟹が歩きさうで草鞋が冷えた。暫くすると暗くなつた、杉、松、榎と処々見分けが出来るばかりに遠い処から幽に日の光の射すあたりでは、土の色が皆黒い。中には光線が森を射通す工合であらう、青だの、赤だの、ひだが入つて美しい処があつた。
時々爪尖に絡まるのは葉の雫の落溜つた糸のやうな流で、これは枝を打つて高い処を走るので。ともすると又常磐木が落葉する、何の樹とも知れずばら/\と鳴り、かさ/\と音がしてばつと檜笠にかゝることもある、或は行過ぎた背後へこぼれるのもある、其等は枝から枝に溜つて居て何十年ぶりではじめて地の上まで落ちるのか分らぬ。」
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