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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 ヤレ又落語の前座が言ひさうなことを、とヒヤリとして、漸と瞳を定めて見ると、美女は刎飛んだ杖を拾つて、しなやかに両手でついて、悠々と立つて居る。
 羽織なしの引かけ帯、ゆるやかな袷の着こなしが、いまの身じろぎで、片前下りに友染の匂ひこぼれて、水色縮緬の扱帯の端、やゝずり下つた風情さへ、杖には似合はないだけ、恰も人質に取られた形――可哀や、お主の身がはりに、恋の重荷でへし折れよう。

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