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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 破鐘《われがね》の如きその大音、哄《どっ》と響いた。目くるめいて魂遠くなるほどに、大魔の形体《ぎょうたい》、片隅の暗がりへ吸込まれたようにすッと退いた、が遥に小さく、凡そ蛍の火ばかりになって、しかもその衣《きぬ》の色も、袴の色も、顔の色も、頭の毛の総髪も、鮮麗《あざやか》になお目に映る。
 「御免遊ばせ。」
 向うから襖一枚、颯と蒼く色が変ると、雨浸《あまじみ》の鬼の絵の輪郭を、乱れたままの輪に残して、ほんのり桃色がその上に浮いて出た。

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