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 『化鳥』 青空文庫

だつて、眼鏡《めがね》を拭かうとして、蝙蝠傘《かうもりがさ》を頤《をとがひ》で押《おさ》へて、うつむいたと思ふと、ほら/\、帽子《ばうし》が傾《かたむ》いて、重量《おもみ》で沈《しづ》み出して、見てるうちにすつぼり、赤い鼻の上へ被《かぶ》さるんだもの。眼鏡《めがね》をはづした上で帽子《ばうし》がかぶさつて、眼が見えなくなつたんだから驚《おどろ》いた、顔中《かほぢう》帽子《ばうし》、唯口ばかりが、其口を赤くあけて、あはてゝ、顔をふりあげて、帽子《ばうし》を揺りあげやうとしたから蝙蝠傘《かうもりがさ》がばツたり落ちた。落《おつ》こちると勢《いきほひ》よく三《みつ》ツばかりくる/\とまつた間に、鮟鱇博士《あんかうはかせ》は五《いつ》ツばかりおまはりをして、手をのばすと、ひよいと横なぐれに風を受けて、斜《なゝ》めに飛んで、遙か川下の方へ憎《にく》らしく落着《おちつ》いた風《ふう》でゆつたりしてふわりと落ちるト忽《たちま》ち矢の如《ごと》くに流れ出した。
博士《はかせ》は片手で眼《めがね》を持つて、片手を帽子《ばうし》にかけたまゝ烈《はげ》しく、急に、殆《ほと》んど数《かぞ》へる遑《ひま》がないほど靴《くつ》のうらで虚空《こくう》を踏むだ、橋ががた/\と動いて鳴つた。

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