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『日本橋』 青空文庫
「大苦みなわけでござりまして、貴女方と同一と申すと口幅ったい、その数でもござりませんが、……稲葉家さんに、お世話になっておりますので、はい。」
「まあ、お孝さんの許に、……ちっとも私知らなかった。」
「はい、あちらの姉さんも、あの御気象で、よく可愛がって下さいます、が、願えますものならば、貴女のお手許に、とその時も思った事でござります。いいえ、不足を言うではござりません。芸者と一概に口では云い条、貴女は、それこそれっきとした奥方様も同じ事。一人の旦那様にちゃんと操をお守りなされば、こりゃ天下一本筋の正しい道をお通りなさる、女の手本でござります。彼娘にもな、あやからせとう存じますので。」
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