検索結果詳細


 『夜行巡査』 青空文庫

「義さん」と呼吸《いき》せわしく、お香は一声呼び懸けて、巡査の胸に額を埋めわれをも人をも忘れしごとく、ひしとばかりに縋り着きぬ。蔦をその身に絡めたるまま枯木は冷然として答えもなさず、堤防の上につと立ちて、角燈片手に振り翳し、をきっと瞰下ろしたる、ときに寒冷謂うべからず、見渡す限り霜白く墨より黒き面に烈しき泡の吹き出ずるは老夫の沈める処と覚しく、薄氷は亀裂しおれり。

 141/164 142/164 143/164


  [Index]