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 『木の子説法』 青空文庫

 と、また途方もない声をして、階子段《はしごだん》一杯に、大《おおきな》な男が、褌《ふんどし》を真正面《まっしょうめん》に顕《あら》われる。続いて、足早に刻《きざ》んで下りたのは、政治狂の黒い猿股《さるまた》です。ぎしぎしと音がして、青黄色に膨れた、投機家が、豚を一匹、まるで吸った蛭《ひる》のように、ずどうんと腰で摺《ず》り、欄干に、よれよれの兵児帯《へこおび》をしめつけたのを力綱に縋《すが》って、ぶら下がるように楫《かじ》を取って下りて来る。脚気《かっけ》がむくみ上って、もう歩けない。
 小児《こども》のつかった、おかわを二階に上げてあるんで、そのわきに西瓜《すいか》の皮が転がって、蒼蠅《あおばえ》が集《たか》っているのを視《み》た時ほど、情《なさけ》ない思いをした事は余りありません。その二階で、三人、何をしているかというと、はなをひくか、あの、泥石の紙の盤で、碁を打っていたんですがね。

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