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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「あれあれ御覧なさいまし。こう言う中にも、明さんの母《おっか》さんが、花の梢と見紛うばかり、雲間を漏れる高楼《たかどの》の、紅の欄干《てすり》を乗出して、叱りも睨みも遊ばさず、児の可愛さに、鬼とも言わず、私を拝んでいなさいます。お美しい、お優しい、あの御顔を見ましては、恋の血汐は葉に染めても、秋のあの字も、明さんの名に憚って声には出ませぬ。
 一言も交わさずに、唯御顔を見たばかりでさえ、最愛《いとお》しさに覚悟も弱る。私は夫のござんす身体《からだ》。他《ひと》の妻でありながらも、《おっか》さんをお慕い遊ばす、そのお心の優しさが、身に染む時は、恋となり、不義となり、罪となる。

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