検索結果詳細


 『木の子説法』 青空文庫

 欠けた瀬戸火鉢は一つある。けれども、煮ようたって醤油《しょうゆ》なんか思いもよらない。焼くのに、炭の粉《こ》もないんです。政治狂が便所わきの雨樋《あまどい》の朽ちた奴を……一雨ぐらいじゃ直ぐ乾く……握り壊して来る間に、お雪さんは、茸に敷いた山草を、あの小石の前へ挿しましたっけ。古新聞で火をつけて、金網をかけました。処で、火気は当るまいが、溢出《はみで》ようが、皆引掴《ひッつか》んで頬張る気だから、二十ばかり初茸《はつたけ》を一所に載せた。残らず、薄樺色《うすかばいろ》の笠を逆《さかさ》に、い軸を立てて、真中《まんなか》ごろのが、じいじい音を立てると、……青い錆《さび》が茸の声のように浮いて動く。

 142/231 143/231 144/231


  [Index]