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 『日本橋』 青空文庫

「……世に出て月が見たいんでしょう。……吹きはしませんよ。」
 とすらりと抜いて、衝と欄干へ姿を斜めに、指々と口に取る。
 ああ、七年の昔を今に、君が口紅流れしあたり。風も、貝寄せに、おくれ毛をはらはらと水が戦ぐと、沈んだ栄螺の影も浮いて、青く澄むまで月が晴れた。と、西河岸橋、日本橋、呉服橋、鍛冶橋、数寄屋橋、松の姿の常盤橋、雲の上なる一つ橋、二十の橋は一斉に面影を霞に映す。橋の名所の橋の上。九百九十九の電燈の、大路小路に残ったのが、星を散らして玉を飾って、その横笛を鏤むる。

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