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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
そうなる時には、令室《おくがた》の、恋の染まった霊魂《たましい》が、五色かがりの手毬となって、霞川に流れもしよう。明さんが、思いの丈を吐く息は、冷たき煙と立のぼって、中空の月も隠れましょう。二人の情の火が重り、白き炎の花となって、襖障子も燃えましょう。日、月でもなし、星でもなし、灯でもない明《あかり》に、やがて顔を合わせましょう。
邸は世界の暗《やみ》だのに。……この十畳は暗いのに。……
明さんの迷った目には、煤も香を吐く花かと映り、蜘蛛の巣は名香の薫が靡く、と心時《こころとき》めき、この世の一切《すべて》を一室《ひとま》に縮めて、そして、海よりもなお広い、金銀珠玉の御殿とも、宮とも見えて、令室《おくがた》を一目見ると、唄の女神と思い崇《あが》めて、跪《ひざまず》き、伏拝む。
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