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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 邸は世界の暗《やみ》だのに。……この十畳は暗いのに。……
 明さんの迷った目には、煤も香を吐く花かとり、蜘蛛の巣は名香の薫が靡く、と心時《こころとき》めき、この世の一切《すべて》を一室《ひとま》に縮めて、そして、海よりもなお広い、金銀珠玉の御殿とも、宮とも見えて、令室《おくがた》を一目見ると、唄の女神と思い崇《あが》めて、跪《ひざまず》き、伏拝む。

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