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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 明さんの迷った目には、煤も香を吐く花かと映り、蜘蛛の巣は名香の薫が靡く、と心時《こころとき》めき、この世の一切《すべて》を一室《ひとま》に縮めて、そして、海よりもなお広い、金銀珠玉の御殿とも、宮とも見えて、令室《おくがた》を一目見ると、唄の女神と思い崇《あが》めて、跪《ひざまず》き、伏拝む。
 長く冷たき黒髪は、玉の緒を揺る琴の糸の肩に懸って響くよう、互の口へ出ぬ声は、膚に波立つ血汐となって、聞えぬ耳に調《しらべ》を通わす、幽《かすか》に触る手と手の指は、五ツと五ツと打合って、晶の玉の擦れる音、戦《わなな》く裳《もすそ》と、震える膝は、漂う雲に乗る心地。

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