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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 我児危い、目盲いたか。罪に落つる谷底の孤家《ひとつや》の灯とも辿れよ、と実の母君の大空から、指さし給う星の光は、電《いなずま》となって壁に閃き、分れよ、退けよ、とおっしゃる声は、とどろに棟に鳴渡り、涙は降って雨となる、情の露は樹に灌ぎ、石に灌ぎ、草さえ受けて、暁の旭の影には瑠璃、紺青、紅の雫ともなるものを。
 罪の世の御二人には、唯可恐《おそろ》しく、凄じさに、かえって一層、犇々《ひしひし》と身を寄せる。
 そのあわれさに堪えかねて、今ほども申しました、児を思うさえ恋となる、天上の規《のり》を越えて、掟を破って、母君が、雲の上の高楼《たかどの》の、玉の欄干にさしかわす、桂の枝を引寄せて、それに縋って御殿の外へ。

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