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 『海神別荘』 華・成田屋

博士  ・・・この女思込みし事なれば、身の窶るる事なくて、毎日ありし昔のごとく、黒髪を結わせて美わしき風情。
公子  (色解く。侍女等、眉をひらく。)
博士  中略をいたします。・・・聞く人一しおいたわしく、その姿を見おくりけるに、限(かぎり)ある命のうち、入相(いりあい)の鐘つくころ、品かわりたる道芝の辺(ほとり)にて、その身は憂き煙となりぬ。人皆いずれの道にも煙はのがれず、殊に不便はこれにぞありける。――これで鈴ヶ森で火刑(ひあぶり)に処せらまするまでを、確か江戸中棄札(すてふだ)に槍を立てて引廻した筈と心得まするので。

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