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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 胸の思《おもい》は火となって、上手が書いた金銀ぢらしの錦絵を、炎に翳して見るような、面も赫《かっ》と、胡粉に注いだ臙脂の目許に、紅の涙を落すを見れば、またこの恋も棄てられず。恐怖《おそれ》と、羞恥《はじ》に震う身は、人膚の温かさ、唇の燃ゆるさえ、清く涼しい月の前の母君の有様に、懐しさが劣らずなって、振切りもせず、また猶予《ためら》う。
 思余《おもいあま》って天上で、せめてこの声きこえよと、下界の唄をお唄いの、君の心を推量《おしはか》って、多勢の上臈たちも、妙なる声をお合せある――唄は爾時《そのとき》聞えましょう。明さんが望の唄は、その自然の感応で、胸へ響いて、聞えましょう。」

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